民法の賃貸借について、宅建独学用の無料テキストを作成しました。
最近の本試験では、賃貸借と転貸借から1問ずつ出題がされることもありましたし、2020年4月の改正点も多い箇所です。
複数回の出題実績があり、今後も出題の可能性が高い内容ですので、要チェックです。
スポンサーリンク
賃貸借
第601条 賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。
賃貸借契約は、当事者の合意のみで成立します。
このような両者の合意だけで成立する契約を『諾成契約』と言います。
諾成契約の成立には、目的物の引渡しや、書面による契約締結等は必要ありません。
これに対して、契約の成立に物の引き渡しを要する契約のことを『要物契約』と言います。
この違いについて本試験で出題されたこともありますので、覚えておくと良いと思います。
2020年法改正
(賃貸借の存続期間)
第604条 賃貸借の存続期間は、50年を超えることができない。契約でこれより長い期間を定めたときであっても、その期間は、50年とする。
賃貸借の存続期間は、更新することができる。ただし、その期間は、更新の時から50年を超える事ができない。
賃貸借の存続期間は、更新することもできますが、その際にも更新の時から50年を超えることはできません。
また、借地借家法が適用されるケースでは、借地借家法の規定が優先になります。
ポイント
2020年4月の改正後は、借地借家法の適用が無い契約(ゴルフ場、資材置き場等)は、最長50年まで期間設定が可能となります。
賃貸借の効力
2020年法改正
(不動産賃貸借の対抗力)
第605条 不動産の賃貸借は、これを登記したときは、その不動産について物権を取得した者その他の第三者に対抗することができる。
借地借家法を勉強してから読むと、理解が深まると思います。
2020年法改正
(合意による不動産の賃貸人たる地位の移転)
第605条の3
不動産の譲渡人が賃貸人であるときは、その賃貸人たる地位は、賃借人の承諾を要しないで、譲渡人と譲受人との合意により、譲受人に移転させることができる。この場合においては、前条第3項及び第4項の規定を準用する。
例えば、月極駐車場のオーナーが土地を売り、駐車場を借りている人の承諾を得ないでオーナーチェンジするようなケースです。
オーナーと次の所有者(譲受人)が合意すれば、借主の承諾がなくても貸主の地位を移転できるようにしました。
2020年法改正
(賃貸物の修繕等)
第606条 賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない。
2 賃貸人が賃貸物の保存に必要な行為をしようとするときは、賃借人は、これを拒むことができない。
平成25年度 出題(正解肢)
建物の賃貸人が賃貸物の保存に必要な修繕をする場合、賃借人は修繕工事のため使用収益に支障が生じても、これを拒むことはできない。
(賃借人の意思に反する保存行為)
第607条 賃貸人が賃借人の意思に反して保存行為をしようとする場合において、そのために賃借人が賃借をした目的を達することができなくなるときは、賃借人は、契約の解除をすることができる。
少し状況を想像しにくい条文ですので、補足しておきますね。
例えば、和室のレンタルルームがあり、賃借人が華道や茶道等の教室を開いていたとします。
ある時、畳が古くなり、壁紙等に一部破損もあることから、賃貸人が保存行為をすることにしました。
この際、床材を変更されるとか、壁紙が洋風なものに換えられてしまう事になれば、教室としての運営に差し支えます。
このような場合、賃貸人の保存行為が賃借人の意思に反していると言えますし、目的も達成できませんので、契約が解除できるということです。
2020年法改正
第607条の2(賃借人による修繕)
賃借物の修繕が必要である場合において、次に掲げるときは、賃借人は、その修繕をすることができる。
一 賃借人が賃貸人に修繕が必要である旨を通知し、又は賃貸人がその旨を知ったにもかかわらず、賃貸人が相当の期間内に必要な修繕をしないとき。
二 急迫の事情があるとき。
改正前には、急迫の事情がひつようであるという定めはありませんでした。
この点については、実務上でも考慮すべきシーンが多いはずですので、試験で出題される可能性が高いと思います。
(賃借人による費用の償還請求)
第608条 賃借人は、賃借物について賃貸人の負担に属する必要費を支出したときは、賃貸人に対し、直ちにその償還を請求することができる。
例えば、アパートの給湯器が故障して家主に連絡したところ、しばらく海外にいるとの事だった為、費用を立て替えて同型機を設置したとします。
本来は、家主が支払うべき費用を支出していますので、この場合、家主に対して直ちに送金するように請求できます。
(減収による賃料の減額請求)
第609条 収益を目的とする土地の賃借人は、不可抗力によって賃料より少ない収益を得たときは、その収益の額に至るまで、賃料の減額を請求することができる。ただし、宅地の賃貸借については、この限りでない。
この条文は、田畑を借り受けた耕作人が、凶作による減収があった場合等を想定してつくられたようです。
民法は、古い法律なので、現代ではあまり見られない事も出て来ますね。
現代に当てはめると、収益目的で土地を借りるのは、駐車場経営とか、ゴルフ場経営等がありそうです。
不可抗力と認められる事実があれば、このような事業でも減額請求が認められる可能性があります。
2020年法改正
(賃借物の一部滅失による賃料の減額請求等)
第611条
1 賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額される。
2 賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、残存する部分のみでは賃借人が賃借をした目的を達することができないときは、賃借人は、契約の解除をすることができる。
改正前の民法では、借主が家賃減額を請求することで効果が発生し、建物などが使用できなくなった時からの分に対して請求するものと解されていました。
改正後は、賃借人は、何も請求しなくても一部滅失した時点から減額を主張できるようになりました。
実例としては、賃貸物件のお風呂が壊れた場合等を想像すると理解しやすいでしょう。
転貸借
(賃借権の譲渡及び転貸の制限)
第612条 賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない。
2 賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは、賃貸人は、契約の解除をすることができる。
物件の「又貸し」については、貸主の承諾を得なければいけない事を覚えておきましょう。
(転貸の効果)
第613条 賃借人が適法に賃借物を転貸したときは、転借人は、賃貸人に対して直接に義務を負う。この場合においては、賃料の前払をもって賃貸人に対抗することができない。
転借人とは、又貸しで借り受けた人の事です。
転貸の場合、直接の契約者は別にいるわけですが、転貸している人も、賃貸人から直接借りているのと同じ義務を負うという事です。
例えば、家主Aと賃貸契約していたBが、適法にCに転貸したとします。
ある時、Bが家主に賃料を滞納したとしましょう。
転借人Cは、Bに対して家賃を前払いしていたとしても、家主に直接の義務を負う事になっているので、Bへの家賃前払いを理由に家主からの賃料支払い請求を拒むことができません。
平成23年度 出題(正解肢)
【前提条件】Aは、Bに対し建物を賃貸し、Bは、その建物をAの承諾を得てCに対し適法に転貸している。
BがAに対して賃料を支払わない場合、Aは、Bに対する賃料の限度で、Cに対し、Bに対する賃料を自分に直接支払うよう請求することができる。(○)
Aは、Bに対する賃料債権に関し、Bが建物に備え付けた動産、及びBのCに対する賃料債権について先取特権を有する。(○)
Aが、Bとの賃貸借契約を合意解除しても、特段の事情がない限り、Cに対して、合意解除の効果を対抗することができない。(○)
平成28年度 出題(正解肢)
【前提条件】AがBに甲建物を月額10万円で賃貸し、BがAの承諾を得て甲建物をCに適法に月額15万円で転貸している場合。
BがAに対して甲建物の賃料を支払期日になっても支払わない場合、AはCに対して、賃料10万円をAに直接支払うよう請求することができる。(○)
AがBの債務不履行を理由に甲建物の賃貸借契約を解除した場合、CのBに対する賃料の不払いがなくても、AはCに対して、甲建物の明渡しを求めることができる。(○)
AがBとの間で甲建物の賃貸借契約を合意解除した場合、AはCに対して、Bとの合意解除に基づいて、当然には甲建物の明渡しを求めることができない。(○)
賃貸借の終了
(期間の定めのない賃貸借の解約の申入れ)
第617条 当事者が賃貸借の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合においては、次の各号に掲げる賃貸借は、解約の申入れの日からそれぞれ当該各号に定める期間を経過することによって終了する。
一 土地の賃貸借 1年
二 建物の賃貸借 3箇月
三 動産及び貸席の賃貸借 1日
不動産業者が契約書を作成する場合、通常は契約期間を明確にします。
ですから、現代ではあまり当てはまるケースがなさそうな話ですよね。
口約束等で貸した場合、法律上でこのようなルールになっている事を知っておく必要性があると判断すれば、出題されるかもしれません。
念のため掲載しておきますが、出題の可能性はそれほど高く無いと思います。
(賃貸借の解除の効力)
第620条 賃貸借の解除をした場合には、その解除は、将来に向かってのみその効力を生ずる。この場合において、当事者の一方に過失があったときは、その者に対する損害賠償の請求を妨げない。
「解除は、将来に向ってのみ効力を生ずる」という表現を覚えておくと良いと思います。
2020年法改正
第621条 (賃借人の原状回復義務)
賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年劣化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
実務的に何かが変わったわけではなく、判例での通説が明文化されたものです。
まとめ|勉強のコツ
このテキストでは、宅建の試験で出題される可能性の高い条文を優先的にまとめています。
私見になりますが、出題する側に立った時に問題にしにくい条文や、実務上での重要性が低い部分等については省いてあります。
過去問を掲載した個所は、今後も複合問題等で出題される可能性が高いと思いますので、少し意識して学習しておいてください。