不動産営業の仕事をしていると、色々な出来事に遭遇します。
ある日の夕刻、売出し現場にフラフラと歩いて来る女性の姿が・・。
今回は、私が実際に経験した出来事です。
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一人の女性が徒歩で
その時、私が待機していた現場は、全部で20棟前後の大きめの開発分譲地でした。
元々、大きな畑があった場所で、道路も新設して造られた開発現場です。
この規模の売出し現場では、物件の戸締りをするだけでも結構な時間がかかります。
新築物件には、電気が付いていない部屋も多いので、暗くなる前に片付けをしておきたいところです。
私は、日が落ちる前にと思い、奥の号棟から戸締りを始めました。
そして、数棟の戸締りを完了して、少しずつ薄暗くなってきた時、入り口の方に女性の姿が見えたのです。
真剣な様子の女性
この現場は、どこにも抜けられない大きな袋小路のような開発現場なので、見学の人以外は入って来ない場所でした。
こんな時間に見学に来るのは、お客さんではなく、きっと近所の人だろうと思いながらも、私は様子を伺っていました。
その女性は、フラフラと歩きながら物件を見回し始めました。
遠目から見る限り、細身の中年女性のようでした。
キョロキョロと真剣に建物を物色しているようだったので、私は戸締りを中断して話しかけてみる事にしました。
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女性からの意外な質問
近づいて話しかけると、女性は少し怯えた様子でした。
「資料をお持ちしますか?」と聞いてみると、女性は意外な言葉を口にしました。
「すみません、ここは何町でしょうか」
私は少し驚きましたが、住所をお教えしました。
住所を知らずに徒歩で見学に来る人なんて出会ったことがありませんから、とても不自然に感じました。
しかし、話し方はいたって普通で、むしろ品を感じるくらいなのです。
謎のカードを差し出される
次に女性の口からこぼれた言葉は、もっと驚くものでした。
「わからなくなってしまって・・」
わからないのはこっちの方でしたが、「何がでしょう?」と尋ねました。
何かボソボソとした言い方で、とても困った様子でした。
そして、女性は、不意に胸元からカードのようなものを出し、私に差し出してきました。
カードの意味
カードのようなものは、紐で繋がれていて、女性の首にかけられていました。
カードには、こう記載されていました。
この女性は痴呆症で、よく迷子になることがあります。
保護していただいた方は、大変申し訳ありませんが、下記の電話番号までご連絡ください。
よろしくお願いいたします。
私は事情を理解し、ご家族に連絡することにしました。
女性には、「もうすぐ家に帰れるので、もう少し待ってくださいね」と教えました。
そして、車の中で待っていてもらいました。
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急いで戸締り
忘れていましたが、片付けが終わっていません。
急に忙しい事になってきました。
私は、ご家族と連絡を取り、住所を教え、その場で待つ事を伝えました。
そして、私は急いで戸締りを進めました。
もう、すっかり暗くなってしまいましたので、上司にも連絡を入れて事情を伝えました。
不安そうにソワソワする女性の様子を伺いながら、全速力で戸締りをしたのです。
奇妙な相席
戸締りを終わらせた私は、車内でその女性との奇妙な相席をしたまま、ご家族を待つ事に・・。
不安を和らげようと思い、色々と質問や世間話をしました。
見た目も、話し方も、痴呆とは思えない様子なのが印象的でした。
そんな談話をして30分位経った頃、ご家族の車が到着して、無事に引き渡すことができました。
女性は、ホッとした様子で、少し涙を浮かべているようでした。
私に申し訳なさそうにお礼の言葉を発し、別れを告げました。
最後に
私は真暗な現場に一人ポツンと残され、テーブルやのぼり旗の撤去をして帰社しました。
支店長に災難を笑われながら、その日は残業した記憶があります。(笑)
不動産営業が介護のような仕事をすることになるとは思ってもみませんでした。
色々な事が起きるものですよね。