民法の『時効』について、宅建独学受験者用のテキストを作成しました。
過去問で出題された箇所を優先し、それ以外の部分は補助的に学習できるようにしてあります。
ある程度の予測に基づいて、効率よく勉強したい人に適したテキストです。
まずは、時効の援用と中断の意味を学び、それがどのような場合に適用されるのかを理解するのが勉強のコツです。
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時効の出題傾向
初めに、時効についての出題傾向についてお話しておきます。
時効とは、時間の経過によって権利を取得したり、権利を失ったりすることです。
権利を取得する場合を取得時効と言い、権利を失う場合を消滅時効と言います。
宅建は不動産に関する資格ですから、当然ながら不動産取引と関係が深い部分から出題されています。
例えば、占有していた不動産を時効によって取得する際の手続き(時効の援用)や、時効の効果が中断される場合等についてよく出題されています。
このテキストでは、細かい部分は出来るだけ省き、試験対策の要点だけをクローズアップしていきます。
民法は深入りせず、「これくらいの勉強でOK」という加減が大事です。
初心者は、この加減がわからないと思いますので、私が代わりにテキスト化しておきます。
時効の援用
時効の援用については、以下のような文言で規定されています。
第145条 時効は、当事者が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない。
時効によって利益を受ける者が援用をしなければ、裁判によってその権利を争うことは出来ないという事です。
援用しない限り何も発生しないのと同じなので、争う余地がないのです。
援用(えんよう)とは、時効の効果を受ける意思を相手に伝えることです。
時効の期間が満了した状態のことを「時効の完成」と言い、時効の効果を享受する意思表示が「時効の援用」です。
時効が到来しても、消滅時効の援用をしなければ対象債権は消滅しないという事を覚えておきましょう。
また、時効の効力は、その起算日にさかのぼって生じます。
つまり、時効の援用によって不動産を取得した場合、その不動産は住み始めた日に遡って所有していたことになるという事です。
元々、その人の所有物だった扱いになると思ってください。
平成30年度 過去問(正解肢)
- 消滅時効完成後に主たる債務者が時効の利益を放棄した場合であっても、保証人は時効を援用することができる。
- 詐害行為の受益者は、債権者から詐害行為取消権を行使されている場合、当該債権者の有する被保全債権について、消滅時効を援用することができる。
- 債務者が時効の完成の事実を知らずに債務の承認をした場合、その後、債務者はその完成した消滅時効を援用することはできない。
解 説
債務者と保証人の時効権利は、別々だと考えてください。
ですから、債務者が時効の利益を放棄したとしても、保証人にはその効果が連動しないわけです。
消滅時効の援用ができるかどうかの判断は、「債権の消滅で直接に利益を受ける者」に該当するかがポイントになります。
債権者の意思に反する詐害行為で何かが売却された時などは、それを取得した第三者が「詐害行為の受益者」ということになります。
詐害行為によって利益を受けた人も、「債権の消滅で直接に利益を受ける者」に該当しますから、時効が完成していれば援用できるのです。
平成17年度 過去問(正解肢)
AのDに対する債権について、Dが消滅時効の完成後にAに対して債務を承認した場合には、Dが時効完成の事実を知らなかったとしても、Dは完成した消滅時効を援用することはできない。
解 説
判例(裁判での判決結果)を絡めた問題で、宅建の問題としては、少し難易度が高いかもしれません。
意味としては、時効が完成していても本人が債務を認めたのなら、時効の効果は得られないという事です。
この時、たとえ時効が成立することを知らなかったとしても関係ないという意味です。
元々、借金等の債権は「返さなくてはいけないもの」ですから、返済の意思があるのなら、それを優先するのも当然というわけです。
仮に、時効の成立を知らなかった場合に承認が無効になるとしたら、それは債権者に不利なルールですよね?
債権者優位で規定されるべき状況なのが理解できれば解ける問題です。
平成12年度 過去問(正解肢)
Aは、BのCに対する金銭債務を担保するため、A所有の土地に抵当権を設定し、物上保証人となった。この場合、民法の規定及び判例によれば、次の記述のうち誤っているものはどれか。
- Aは、この金銭債務の消滅時効を援用することができる。
- Bが、Cに対し、この金銭債務が存在することを時効期間の経過前に承認した場合、Aは、当該債務の消滅時効の中断の効力を否定することができない。
補 足
時効の援用は、「時効により利益を受ける者」がすることができます。
これを知っているだけで、Aが消滅時効を援用できることが判断できます。
また、債務者が債務承認をして時効が中断した場合、誰もこれを否定できません。
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時効の中断
時効の中断の意味は、時効の進行を中止させてスタート地点に戻すことです。
スゴロクで言ったら、「ふりだしに戻る」です。
時効が中断することになる事由として、『請求(催告)』・『差押え(仮差押えを含む)、又は仮処分』・『承認』の3つです。
時効の中断は、その中断の事由が生じた当事者と、その承継人の間においてのみ、その効力を有します。
また、時効によって得られる利益は、あらかじめ放棄することはできません。
(時効の中断事由)
第147条 時効は、次に掲げる事由によって中断する。
一 請求
二 差押え、仮差押え又は仮処分
三 承認
ここで言う請求とは、口頭や書面での簡易なものではありません。
裁判上の請求や、催告のこと等を言っています。
詳しくは、個別に規定されていますので、以下で説明していきます。
(裁判上の請求)
第149条 裁判上の請求は、訴えの却下又は取下げの場合には、時効の中断の効力を生じない。
平成7年度 過去問(正解肢)
前提条件:AのBに対する債権(連帯保証人C)の時効の中断に関する次の記述
AがBに対して訴訟により弁済を求めても、その訴えが却下された場合は、時効中断の効力は生じない。
(催告)
第153条 催告は、6箇月以内に、裁判上の請求、支払督促の申立て、和解の申立て、民事調停法若しくは家事事件手続法による調停の申立て、破産手続参加、再生手続参加、更生手続参加、差押え、仮差押え又は仮処分をしなければ、時効の中断の効力を生じない。
解 説
要するに、催告で時効を中断させるには、6か月以内に上記に挙げられたような事項で勝訴しなければダメという事です。
(差押え、仮差押え及び仮処分)
第154条 差押え、仮差押え及び仮処分は、権利者の請求により又は法律の規定に従わないことにより取り消されたときは、時効の中断の効力を生じない。
ポイント
「差押え等が取り消しされた時には、時効は中断しない」と覚えておきましょう。
また、差押え、仮差押え及び仮処分は、時効の利益を受ける者に通知をした後でなければ、時効の中断の効力を生じません。
(承認)
第156条 時効の中断の効力を生ずべき承認をするには、相手方の権利についての処分につき行為能力又は権限があることを要しない。
平成7年度 過去問(正解肢)
前提条件:AのBに対する債権(連帯保証人C)の時効の中断に関する記述
BがAに対して債務の承認をした場合、Bが被保佐人であって、保佐人の同意を得ていなくても、時効中断の効力を生じる。
時効の進行
時効が中断するような事が起きたときには、その中断事由が終了した時から、新たに時効が進行を始めます。
中断されると、時効のタイマーがリセットされると考えてください。
裁判上の請求によって中断した時効は、裁判が確定した時から、新たにその進行を始めます。
(相続財産に関する時効の停止)
第160条 相続財産に関しては、相続人が確定した時、管理人が選任された時又は破産手続開始の決定があった時から6カ月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。
補 足
今後、相続との組み合わせ問題で出題される可能性がありますので、念のため記載しておきました。
相続人の確定、管理人の選任、破産手続開始の時から6ヶ月経過するまでを停止期間としています。
相続財産の処理には時間がかかるものですし、相続による権利義務の変動が確定してから時効を完成させるのが望ましいので、時効の進行を一時停止させているのです。
(天災等による時効の停止)
第161条 時効の期間の満了の時に当たり、天災その他避けることのできない事変のため時効を中断することができないときは、その障害が消滅した時から2週間を経過するまでの間は、時効は、完成しない。
不可抗力によって時効の中断ができなくなった場合、その障害が消滅してから2週間が経過するまでは時効の進行を一時停止するという意味です。
災害の発生中に時効が完成した場合、これを援用することができない状況も考えられますよね。
すると、時効の利益を受ける者にとって不利になってしまいますから、災害時等には時効の進行が一時停止されるわけです。
近年は、自然災害が増加していますので、念のため掲載しておきました。
取得時効
取得時効とは、一定期間に渡って公然と他人の物を占有することによって、その物の所有権を取得することです。
初めて民法を学ぶ人からすれば、これがどんな状況なのか想像できませんよね。
民法はとても古い法律なので、当時を想像するのは難しい部分もあります。
現代のように登記情報はデータ管理されていない時代でしたから、登記ミスや事故も多かったでしょう。
それに、契約書類等も手書きの時代だったので、紛失や焼失等は珍しい事ではありません。
例えば、先代が購入した土地に家を建て、その子孫が住み続けていたとします。
当時、何らかの手違いで登記上の権利が移っていないままになっていた場合、権利関係としては、ずっと他人の所有する土地を占有していたことになります。
売買契約書等が残っていない場合、その売買の事実や権利を証明することも困難です。
このような場合に、要件さえ満たしていれば援用することによって所有権移転登記を求めることができます。
所有権の取得時効
所有権の取得時効には、2種類あります。
善意無過失の場合と、それ以外の場合です。
善意無過失とは、占有開始の時点で「自分の所有物だと信じていて、そのことに過失がない」という意味です。
「過失なく、他人のものだと知らなかった」と言い換えることも出来ます。
善意無過失で占有し始めた場合、平穏かつ公然に10年間占有することで取得時効の要件を満たしたことになります。
途中で他人のものだと知った等、後から悪意になったとしても、占有開始の時点で知らなければ善意無過失での時効取得を妨げられません。
善意無過失以外のケースについては、平穏かつ公然に20年間占有することで時効取得の要件を満たします。
尚、途中で占有を中断した場合や、他人に占有を奪われた時には時効は中断します。
また、占有期間については、親子での占有の場合等のように、前の占有者の占有期間を継承して主張することができます。
消滅時効
消滅時効は、時効によって権利を失う事です。
例えば、金銭の貸付債権等を一定の期間放置していた場合、時効が完成して援用されてしまうと、取り立てする権利が無くなってしまうわけです。
消滅時効の起算点については、「その権利が行使できる状態になった時から」と覚えましょう。
(債権等の消滅時効)
第167条 債権は、10年間行使しないときは、消滅する。
2 債権又は所有権以外の財産権は、20年間行使しないときは、消滅する。
確かに、10年間も放置していたら、「べつに返さなくてもいいよ」と思っていると考えてもよさそうですよね。
債権又は所有権以外の財産権というのは、著作権・特許権のような知的財産権等を想像すると良いと思います。
民法の第168条では、年金等のような定期金債権の消滅時効についても規定していますが、不動産取引には深く関係しない部分ですので、あえて省略します。
(定期給付債権の短期消滅時効)
第169条 年又はこれより短い時期によって定めた金銭その他の物の給付を目的とする債権は、5年間行使しないときは、消滅する。
定期給付債権とは、賃料、管理費、修繕積立金のような債権をイメージしてください。
元々が1年以下の短い期間で受け取る事になっている債権は、消滅時効も短めにしているということです。
これ以外にも、消滅時効の期間を短く規定しているものがありますので、以下に全体をまとめておきます。
赤文字については、試験対策として特に覚えておきたい項目です。
【消滅時効の時効完成】
- 債権は、原則10年
- 債権・所有権以外は20年
- 短期債権(賃料等)は5年
- 工事請負代金等は工事完了から3年
- 小売商品代価は2年
- 教育関連債権は2年
- 給料債権は1年
- 運賃・宿泊・飲食料等は1年
ポイント
3年の短期消滅時効は、第170条で以下のような表現で規定されています。
「医師、助産師又は薬剤師の診療、助産又は調剤に関する債権」
「工事の設計、施工又は監理を業とする者の工事に関する債権」
実際には、このように記載されていますが、宅建と関わりの深い部分としては工事代金です。
ですから、『請負工事等の債権は3年』と覚えておけば充分だと思います。
補 足
確定判決によって確定した消滅時効は、民法上で10年よりも短い時効期間の定めがある場合でも、その時効期間は10年として扱われます。
まとめ
時効については、直近の本試験での出題率が高いです。
不動産に関係する部分から重点的に学習するのがコツだと思います。
実務であまり役に立たないような個所は、出題される可能性が低いと考えましょう。