不動産業界で長く働いていると、一般の人とは少し違った視点で不動産が見えるようになります。
今回の記事では、世界的な不動産価格の動向から、日本の不動産市場の現状を把握し、不動産価格の今後の見通しをお話したいと思います。
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各国の不動産価格の推移
1998年からの約20年間で世界的な不動産価格の推移を見ていくと、驚くような現実が見えてきます。
20年間という長い月日の中で、世界ではどれくらい不動産価値が上昇していると思いますか?
日本人からすると、「上昇とは言っても、せいぜい1.5倍くらいでは?」という感覚の人が多いのではないでしょうか。
実は、オーストラリアでは、20年前に比べて不動産価格が約4倍になっています。
カナダやイギリスでも3倍を超えていますし、アメリカでも約2倍になっています。
日本にいると、こんな感覚は忘れてしまいますが、景気が良くなればそうなる方が自然なわけです。
もしも、自宅の価値が購入時の2倍になっていたら嬉しいですよね。
これに対し、日本では、皆さんが体感している通り、あまり変わっていないのが現実です。
むしろ、1998年からの数年間は、若干不動産価格が下落しており、2005年以降からは横ばいが続いているのです。
日本の住宅価格は、20年もの歳月をかけても何も変わっていない、という事実が浮かび上がってきました。
土地の数は圧倒的に少ない日本ですが、世界的にも珍しいくらいに価値が上がっていません。
家賃相場の世界的状況
各国の消費者物価指数から割り出した住宅家賃によると、アメリカとオーストラリアが最も賃料が高いようです。
20年前に比べて、約1.9倍まで上昇しているそうです。
オーストラリアは不動産価格が約4倍になっているので、賃貸にメリットがある状況になっていることが窺えます。
アメリカでは、不動産価格と賃料の上昇率がほぼ同じくらいの比率で動いている事が読み取れます。
この他、イギリスでは約1.6倍、ユーロ圏では約1.3倍程度の賃料上昇が見られました。
賃料が下がったという国は、なんと日本だけです。
日本では、20年前よりも人口減少や高齢化の問題が進み、賃料は当時の約0.8倍なのです。
空き家問題が顕著化する等、今後もこの傾向は変わりそうもありません。
インフレ目標と不動産価格
海外では、商業向けのテナント賃料も上昇しています。
テナント賃料が上昇すると、賃料負担の増加分が商品価格に反映されるようになります。
すると、自然と物価が上昇し、少しずつインフレ状態になりますよね。
一方、日本では、テナント賃料にも変動がありません。
この為、不動産賃料の上昇によるインフレ誘発は期待できないでしょう。
不動産業界から見れば、日銀のインフレ目標(2%)を達成するのは、相当難しい現実なのです。
しかも、日本の場合、消費税増税や賃料負担分を企業努力で吸収しようとする傾向もあります。
企業が努力してくれると消費者は助かりますが、会社の利益は減ってしまいます。
そうなれば、働く人達の給料は上がらないので、消費者心理は低迷し続けます。
結果、景気も低迷して、何も変わらないという状況が続いています。
日銀が金融緩和を継続したくらいでは、インフレは起きないというのが現実だったわけです。
不動産価格の今後
賃料相場が上がるには、働く人の給料が増え、不動産価格が上昇しなければなりません。
つまり、不動産を欲しがる人の数が足りないのです。
資金計画が苦しい家庭は、家を買おうと考えないでしょう。
しかも、土地バブルで苦い経験がある日本では、価格上昇に対して慎重です。
国土利用計画法でも適正価格を重視するように規定されており、法的な面から見ても地価が上昇し難い国です。
人口減少と空き家増加等によって、今後は土地価格が安くなっていく可能性すらあります。
世界で物価上昇が起きているように、本来は、景気が良くなって不動産価格が上昇し、それに伴って賃金も上がるという循環が起こって欲しいものです。
単純に私達が市場に出る不動産価格を上げても、あくまでも売主の希望でしかありませんから、実際の相場とは一致しません。
価格が高くても、消費者が納得して購入するような経済状況を生み出せなければ、今後も日本の不動産価格は上昇しないままでしょう。
コロナの影響
コロナウイルスによって、戸建の選ばれ方に変化が起きていると聞きます。
リモートで働くことに慣れた人達が、郊外での購入を許容するようになっているという噂です。
しかし、全体に対する比率から見れば、それほど大きな変化ではないでしょう。
地価が動くほどの受給変化が生じるわけではないでしょうから、やはり横ばい傾向は変わらないと思います。
コロナによる経済悪化が長引けば、むしろ価格は下がる傾向にあると思います。
建築業者とすれば、売れなければ物件価格を下げるしかないからです。
不動産価格に変化の兆し
世界では、不動産価格の上昇と共に、賃料も上昇してきました。
しかし、ここに来て、少し様相が変わってきた出来事が起こっています。
NY等の一等地において、高額なテナントが次々に空室になっているのです。
通常ならば、景気が良くなったことで不動産価格が上昇していきますから、企業は商品価格を上げることも可能なはずです。
しかし、近年では、これが出来なくなってきているのです。
その理由は、アマゾンのようなネット販売会社の台頭です。
AIによる物流の効率化と、WEB購入の浸透によって、路上店舗のコストがコントロールできなくなったのです。
このような産業構造の変化は、不動産業界だけでなく、様々な業種に影響を与えていくはずです。
日本でも、いつこのような事が起きてもおかしくない時代だと思いますので、変化には注意しておきたいですね。
まとめ
今後、戸建を購入する人の数は減り、リフォーム需要が増えると言われています。
日銀がいくら金利を下げても、絶対数が少なければ意味がありませんよね。
また、賃貸市場では、空室率の増加と、ワンルーム物件の飽和状態が気になります。
私達プロの感覚からすれば、一等地以外は、「賃料は下がる一方」というのが現実です。
少子化対策だけでは人口が増える事もなさそうですから、あとは外国人の流入に頼るしかないのかもしれません。
結論としては、今後の不動産価格の推移は、「横ばい又は僅かな低下」というのが現実的なのではないでしょうか。