宅地建物取引士の独学受験生用に、宅地造成等規制法の無料テキストを作成しました。
メインテキストとしても使えるようにしてありますので、是非ご活用ください。
1~2回、理解をしながら読み込めば、基本学習を完了できるはずです。
オリジナルの過去問と解説もありますので、併せて学習すると効果的です。
最終編集日:2020年12月
宅地造成等規制法の目的
この法律は、崖崩れや土砂災害等を防止するための規制を行い、国民の生命と財産を保護することが目的です。
この為、宅地を造成する際の、許可・届出・維持等についてのルールを定めています。
崖崩れや土砂災害が起こるのは、主に山の斜面がある場所です。
この為、大雨や大地震等によって、災害が発生する可能性の高い地域を指定します。
この地域のことを、宅地造成工事規制区域と言います。
宅地造成工事規制区域は、土砂災害などの可能性が考えられる地域ですから、一定規模の宅地造成工事をする時には、都道府県知事の許可を受けなければなりません。
但し、都市計画法における開発許可を受けている場合、既にこの許可を得ている扱いとなります。
宅地造成工事の許可は、他の法律等によってチェックされていない時だと考えてください。
ポイント
宅地造成工事規制区域外の場合には、同法による都道府県知事の許可又は届出等の義務は生じません。 2019年出題有
立入検査について
都道府県知事(又は委任した者)は、宅地造成工事規制区域の指定のために他人の占有する土地に立ち入って測量又は調査を行う必要がある場合に、立入検査をすることができます。
この際、立ち入ろうとする日の3日前までに、その旨を土地の占有者に通知しなければいけません。
そして、その土地に建築物があるとか、垣根や柵等で囲まれた土地に立ち入ろうとする場合においては、あらかじめ、その旨をその土地の占有者に告げなければなりません。
また、日出前及び日没後においては、土地の占有者の承諾があつた場合を除き、その土地に立ち入ってはならないことも規定しています。
一方で、土地の占有者又は所有者は、正当な理由がない限り、この立入検査を拒むこと、又は妨げることを禁止しています。2020年度出題有
都道府県知事は、この立入検査によって損失を受けた者に対しては、通常生ずべき損失を補償しなければなりません。
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宅地造成の意味
この法律で言う宅地造成とは、宅地にするために行う土地の形質変更で政令によって定められたものを言います。
宅地造成等規制法で言う「宅地」とは、農地、採草放牧地及び森林並びに道路、公園、河川その他政令で定める公共の用に供する施設の用に供されている土地以外のことを意味します。
「宅地以外の土地を宅地にするため」又は、「宅地で行う土地の形質の変更」だけが宅地造成に該当する行為です。
政令で定める一定規模の工事とは、以下のような内容の工事です。
- 切土で、当該部分の高さが2mを超える崖を生ずるもの
- 盛土で、当該部分の高さが1mを超える崖を生ずるもの
- 切土と盛土を同時に行う場合で、上記基準の両方を上回るもの
- 切土又は盛土の面積が500㎡を超えるもの
ポイント
後で簡単な覚え方に書き換えますので、ここではまだ暗記しなくて大丈夫です。
切土と盛土の工事を同時に行う際、片方の工事だけが基準を超える場合は、1番又は2番に該当します。
ですから、3番では、両方の基準が超えた場合だけの事を言っています。
切土と盛土の理解
切土と盛土という言葉では、良く状況がわからないという人のために、少し詳しく説明しておきます。
これらの意味を理解できている人は、次項へ進んでください。
切土も、盛土も山の斜面を想像してください。
そこに、大きな階段を造るとしたら、山肌の土を階段状に切り取っていく必要がありますよね?
この切り取った部分が切土です。
宅地を造る為に、土を切り取る工事の事です。
ホールケーキ等を大きなスプーンですくい取ったときの断面の様に、土が無くなる部分が出ます。
この時に露出する直角面の断面の高さが「切土の高さ」になります。
盛土は、山の斜面等に土を支えるための塀を造り、そこに土を入れる事で土地を造る工事です。
高低差のある場所では、擁壁等によって囲まれた土地の中に土を入れる場合もあります。
造成した土地に、後から土を入れると、フカフカしますよね?
ですから、盛土の高さが1mを超えると沈む可能性が高いのです。
たった1mでも許可がいるのは、このような事情からだと考えれば覚えやすいのではないでしょうか。
切土は、元々の山肌が露出しただけですから、ある程度の堅さはありそうですよね。
でも、人の高さを超える壁が出来れば、さすがに土砂災害の危険があります。
だから、2mを超える崖を生じる切土は許可がいるのだと考えれば、自然な理屈で頭に入るのではないかと思います。
宅地造成工事規制区域の指定
都道府県知事、指定都市の長、中核市の長は、関係市町村長の意見を聴いて、宅地造成等によって災害が起きる可能性が高い区域を、宅地造成工事規制区域として指定することができます。
この指定は、この法律の目的を達成するために必要な、最小限度のものにすることになっています。(なるべく範囲を絞らなければいけないという事)
都道府県知事は、宅地造成工事規制区域を公示し、関係市町村長に通知しなければなりません。
宅地造成工事規制区域内の宅地の所有者・管理者・占有者は、宅地造成に伴う災害が生じないよう、その宅地を常時安全な状態に維持するように努めなければなりません。
ポイント
本試験では、「誰が宅地造成工事規制区域を指定できるのか」に着目した問題が出題されています。
工事の許可
宅地造成工事規制区域内において行われる宅地造成に関する工事については、造成主は、当該工事に着手する前に、国土交通省令で定めるところにより、都道府県知事の許可を受けなければならない。(第八条)
ここは、条文そのままで十分に理解できる内容だと思います。
宅地造成工事規制区域内ですから、工事の前に都道府県知事の許可を受けるのは、自然な事ですよね。
都道府県知事は、申請があった時には、遅滞なく許可又は不許可の処分をしなければなりません。
因みに、都市計画法による開発行為等、他の手続きで許可を得ている場合、都道府県知事の許可は不要です。
また、規制区域内の工事は、政令で定める技術的基準に従い、擁壁、排水施設等は、宅地造成に伴う災害を防止するため必要な措置が講ぜられたものでなければなりません。
ポイント
許可を受けなくてはいけないのは、造成主です。
工事を施工する者ではありませんので、注意しましょう。
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国又は都道府県の特例
第11条では、都道府県知事の許可を受けなくても良い特例について定めています。
それは、国又は都道府県が行う宅地造成に関する工事で、都道府県都知事との協議が成立している場合です。
都道府県知事との協議が成立したのですから、実質上許可を得たのと同じですよね。
一応、条文の抜粋を掲載しておきます。
国又は都道府県が、宅地造成工事規制区域内において行う宅地造成に関する工事については、国又は都道府県と都道府県知事との協議が成立することをもつて第八条第一項本文の許可があつたものとみなす(第11条抜粋)
ポイント
宅地造成等規制法上の許可が必要なのは、「宅地造成工事規制区域内で宅地造成を行う時」です。
宅地造成工事規制区域外で行う宅地造成工事の場合、許可は不要です。
変更の許可
2019年・2020年 出題有
宅地造成に関する工事の許可を受けた者が、工事の計画を変更する時は、都道府県知事の許可を受けなければなりません。
軽微な変更の場合、許可までは不要で、変更について都道府県知事に届け出をすれば良いとしています。
軽微な変更とは、以下のような場合です。
- 造成主、設計者又は工事施行者の変更
- 工事の着手予定年月日又は工事の完了予定年月日の変更
工事の変更は、「一度許可した工事とは別の内容の宅地造成になった」と考えれば良いと思います。
そう考えれば、当然に再度の許可が必要ですよね?
これに対し、許可された工事の方針自体に影響が無いような変更は、いちいち許可申請するとお互いに大変です。
そこで、軽微な変更については、後でチェックだけする「届出」でOKにしたのだと考えましょう。
許可制度の対象を整理!
試験では、どのような工事が「宅地造成工事」に該当するのかが問われることが多いです。
又は、「許可がいるか・いらないか」を判断させる問題です。
シンプルに整理して、間違えないようにしましょう。
まず、第一条件になるのは、宅地にするための工事である事です。
宅地にするための造成工事が対象、という大前提を忘れないようにしましょう。
宅地造成工事規制区域内であっても、宅地以外の目的に造成する工事には、この法律に基づく許可はいりません。
宅地にするという事は、「人が住む」という事ですから、人命を守るために厳しくチェックする必要があるというのが、この法律の趣旨なのです。
次に、考えるのは、宅地造成工事規制区域内であるかどうかです。
問題文を読むときには、「宅地造成工事規制区域内で、宅地にするための造成であるか」を意識しましょう。
この条件に該当していたら、規模を確認します。
都道府県知事に許可が必要な造成工事の規模(政令で定める工事)は、以下の通りです。
- 切土の高さが2mを超える
- 1mを超える盛土をする
- 切土と盛土の両方が上記基準を上回る
- 切土又は盛土の面積が500㎡を超える
都道府県知事は、宅地造成に関する工事についての許可に、工事の施行に伴う災害を防止するため必要な条件を付することもできます。(宅地造成等規制法8条3項)
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工事完了検査
都道府県知事から許可を受けて工事を完了した場合、規定に適合しているかの検査を受けなければなりません。
都道府県知事は、適合が認められた工事には、検査済証を交付しなければなりません。
工事内容が規定に適合していない場合、当該工事の施行の停止を命じ、又は相当の猶予期限を付けて、擁壁等の設置その他宅地造成に伴う災害の防止のため必要な措置をとることを命ずることができます。
又、都道府県知事は、偽りその他不正な手段で許可を受けた者や、許可に付けた条件に違反した者に対しては、その許可を取り消すことが出来ます。
工事等の届出
ここからは、「許可」では無く、期限内に「届出」をしなければならないケースについて説明していきます。
既存の工事
宅地造成工事規制区域が指定された際に、その区域内で既に宅地造成に関する工事が始まっていた場合には、事前に許可申請することが不可能ですよね。
そこで、このような場合は、軽微な変更をした時と同じように「届出」をさせることになっています。
2019年出題有
この届出は、宅地造成工事規制区域の指定された日から21日以内に都道府県知事に対して行う必要があります。
本来なら許可が要る工事なので、期限を定めて届出をさせていると考えましょう。
擁壁等の工事
宅地造成工事規制区域内で、擁壁等に関する工事をする場合は、工事に着手する日の14日前までに、都道府県知事に届出をしなければなりません。
切土や盛土は許可レベル、擁壁工事は届出レベルの工事だということです。
「高さが2mを超える擁壁」、「地表水等を排除するための排水施設」、「地滑り抑止ぐい等」の除去を行おうとする場合にも同様に14日前までに都道府県知事への届け出が必要です。
擁壁(ようへき)とは、石垣等のように、宅地の周囲に造られた人工的な壁の事です。
「高さ5mを超える擁壁」、「切土又は盛土をする土地の面積が1,500㎡を超える土地における排水施設の設置」については、政令で定める資格を有する者(設計士)による設計が必要です。
土地の転用
宅地造成工事規制区域内の土地を宅地に転用しようとする場合、転用した日から14日以内に都道府県知事に届出をしなければなりません。
転用した宅地に一定規模の造成工事が発生すれば、許可条件にかかりますよね。
宅地以外の土地を宅地に転用するだけの場合、その時点で許可はいりません。
しかし、行政として規制区域内での宅地の存在を把握しておく必要があります。
そこで、この時点では、転用の日から14日以内に届出義務だけを課しています。
暗記ポイント!
- 既存工事⇒宅地造成工事規制区域の指定から21日以内
- 擁壁工事⇒工事に着手する日の14日前まで
- 宅地へ転用⇒転用した日から14日以内
※いずれも宅地造成工事規制区域内限定の話です
補足
宅地造成に関して他の法律等で許可を受けている場合、届出は不要です。
宅地の保全等
宅地造成規制区域内の宅地の所有者(管理者又は占有者も)は、宅地造成に伴う災害が生じないように常時安全な状態に維持するように努めなければなりません。
都道府県知事は、その宅地の所有者、管理者、占有者、造成主又は工事施行者に対し、擁壁等の設置又は改造その他宅地造成に伴う災害の防止のため必要な措置をとることを勧告することができます。
都道府県知事は、勧告だけではなく、改善命令についても可能です。

都道府県知事は、宅地造成工事規制区域内の宅地で、宅地造成に伴う災害の防止のため必要な擁壁等が設置されておらず、又は極めて不完全であるために、これを放置するときは、宅地造成に伴う災害の発生のおそれが大きいと認められるものがある場合においては、その災害の防止のため必要であり、かつ、土地の利用状況その他の状況からみて相当であると認められる限度において、当該宅地又は擁壁等の所有者、管理者又は占有者に対して、相当の猶予期限を付けて、擁壁等の設置若しくは改造又は地形若しくは盛土の改良のための工事を行うことを命ずることができる(第17条抜粋)
都道府県知事は、宅地造成工事規制区域内における宅地の所有者、管理者又は占有者に対して、当該宅地又は当該宅地において行われている工事の状況について報告を求めることができます。(第19条)
造成宅地防災区域
造成宅地防災区域は、平成18年に新設された防災区域です。
新潟県中越地震以降、盛土造成地での地盤災害が多かった事から新設されました。
宅地造成工事規制区域外において、地震等によって擁壁崩壊や地盤災害に発展する恐れが大きい場所に指定される地域です。
2019年出題有
第二十条 都道府県知事は、この法律の目的を達成するために必要があると認めるときは、関係市町村長の意見を聴いて、宅地造成に伴う災害で相当数の居住者その他の者に危害を生ずるものの発生のおそれが大きい一団の造成宅地(これに附帯する道路その他の土地を含み、宅地造成工事規制区域内の土地を除く。)の区域であつて政令で定める基準に該当するものを、造成宅地防災区域として指定することができる。
2 都道府県知事は、擁壁等の設置又は改造その他前項の災害の防止のため必要な措置を講ずることにより、造成宅地防災区域の全部又は一部について同項の指定の事由がなくなつたと認めるときは、当該造成宅地防災区域の全部又は一部について同項の指定を解除するものとする。
3 第三条第二項から第四項まで及び第四条から第七条までの規定は、第一項の規定による指定及び前項の規定による指定の解除について準用する。
造成宅地防災区域を指定するのは、都道府県知事です。
擁壁等の設置又は改造、その他の災害防止のために必要な措置を講じることで造成宅地防災区域の指定事由が無くなったと認める時は、この区域指定を解除するものとしています。
造成宅地防災区域内の造成宅地の所有者(管理者又は占有者)は、災害が生じないよう、必要な措置を講ずるように努めなければなりません。
都道府県知事は、これに関して必要な措置をとることを勧告することができます。
政令で定める基準
造成宅地防災区域内の指定は、政令で定める基準に該当しなければなりません。
この「政令で定める基準」は、要するに施行令(19条)に規定している基準のことです。
以下のような基準がありますので、目を通しておきましょう。
- 盛土をする前の地盤面が水平面に対し20度以上の角度をなし、かつ、盛土の高さが5m以上であるもの
- 盛土をした土地の面積が3,000㎡以上であり、かつ、盛土をしたことにより、当該盛土をした土地の地下水位が盛土をする前の地盤面の高さを超え、盛土の内部に浸入しているもの
まとめ|勉強のコツ
宅地造成等規制法は、農地法等と同じく貴重な得点源です。
1問を確実に取りに行く勉強をしてください。
内容的にも量的にも比較的やさしい法令だと思います。
許可と届出の違いをよく理解し、過去問をしっかりやれば、必ず得点できるはずです。
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宅地造成等規制法の過去問と解説
宅地造成等規制法の過去問だけをまとめて学習できるようにしました. 以下の無料テキストの精読が完了した後に、反復練習してみてください。 無料テキスト スポンサーリンク 目次 宅地造成等規制 ...