相隣関係(民法)の宅建独学用テキストを作成しました。
不動産の業務にも関わりの深い部分ですし、建築基準法とも関連するところです。
今後も出題されることがあると思いますので、活用して本試験に備えていただければと思います。
相隣関係
(隣地の使用請求)
第209条 土地の所有者は、境界又はその付近において障壁又は建物を築造し又は修繕するため必要な範囲内で、隣地の使用を請求することができる。ただし、隣人の承諾がなければ、その住家に立ち入ることはできない。
2 前項の場合において、隣人が損害を受けたときは、その償金を請求することができる。
平成21年度 出題(正解肢)
・土地の所有者は、境界において障壁を修繕するために必要であれば、必要な範囲内で隣地の使用を請求することができる。
土地の通行権
第210条 他の土地に囲まれて公道に通じない土地の所有者は、公道に至るため、その土地を囲んでいる他の土地を通行することができる。
2 池沼、河川、水路若しくは海を通らなければ公道に至ることができないとき、又は崖があって土地と公道とに著しい高低差があるときも、前項と同様とする。
第212条 第210条の規定による通行権を有する者は、その通行する他の土地の損害に対して償金を支払わなければならない。ただし、通路の開設のために生じた損害に対するものを除き、一年ごとにその償金を支払うことができる。
人の土地を通行しなければ公道に出られないケースを保護しつつ、通行される側の対価についても定めています。
212条の規定は、年間使用(通行)料の事です。
第213条 分割によって公道に通じない土地が生じたときは、その土地の所有者は、公道に至るため、他の分割者の所有地のみを通行することができる。この場合においては、償金を支払うことを要しない。
2 前項の規定は、土地の所有者がその土地の一部を譲り渡した場合について準用する。
土地を分割した際、道路から遠い方の土地が接道できなくなったら、分割前の土地を通りなさいと言っています。
所有者の都合で土地を分けたのですから、自分達の中で完結させなさいという事です。
平成25年度 出題(正解肢)
【前提条件】甲土地の所有者Aが、他人が所有している土地を通行することに関する記述。
・甲土地が他の土地に囲まれて公道に通じない場合、Aは、公道に出るために甲土地を囲んでいる他の土地を自由に選んで通行できるわけではない。
・甲土地が共有物分割によって公道に通じなくなった場合、Aは、公道に出るために、通行のための償金を支払うことなく、他の分割者の土地を通行することができる。
平成13年度 出題(正解肢)
【前提条件】A所有の甲地は袋地で、Aが所有していない回りの土地(囲繞地)を通る通路を開設しなければ公道に出ることができない。
・甲地が、A及びCの共有地の分割によって袋地となったときには、Aは、Cが所有する分割後の残余地にしか通路を開設することができない。
水流について
(自然水流に対する妨害の禁止)
第214条 土地の所有者は、隣地から水が自然に流れて来るのを妨げてはならない。
(水流に関する工作物の修繕等)
第216条 他の土地に貯水、排水又は引水のために設けられた工作物の破壊又は閉塞により、自己の土地に損害が及び、又は及ぶおそれがある場合には、その土地の所有者は、当該他の土地の所有者に、工作物の修繕若しくは障害の除去をさせ、又は必要があるときは予防工事をさせることができる。
近年、大きな水害が増えていますので、このような予防工事の要請は増加する可能性があります。
どんな場合に予防工事をさせることができるのか等、出題されてもおかしくないと思います。
(雨水を隣地に注ぐ工作物の設置の禁止)
第218条 土地の所有者は、直接に雨水を隣地に注ぐ構造の屋根その他の工作物を設けてはならない。
(水流の変更)
第219条 溝、堀その他の水流地の所有者は、対岸の土地が他人の所有に属するときは、その水路又は幅員を変更してはならない。
2 両岸の土地が水流地の所有者に属するときは、その所有者は、水路及び幅員を変更することができる。ただし、水流が隣地と交わる地点において、自然の水路に戻さなければならない。
3 前二項の規定と異なる慣習があるときは、その慣習に従う。
対岸の土地が他人の所有だった場合は、溝や堀等の水流について勝手に変更できないと覚えておきましょう。
(排水のための低地の通水)
第220条 高地の所有者は、その高地が浸水した場合にこれを乾かすため、又は自家用若しくは農工業用の余水を排出するため、公の水流又は下水道に至るまで、低地に水を通過させることができる。この場合においては、低地のために損害が最も少ない場所及び方法を選ばなければならない。
(堰の設置及び使用)
第222条 水流地の所有者は、堰(セキ)を設ける必要がある場合には、対岸の土地が他人の所有に属するときであっても、その堰を対岸に付着させて設けることができる。ただし、これによって生じた損害に対して償金を支払わなければならない。
境界について
(境界標の設置)
第223条 土地の所有者は、隣地の所有者と共同の費用で、境界標を設けることができる。
境界標は、土地の境界を示すためのしるしの事です。
測量が必要になる場合も多く、正式な境界確定をするには費用がかかります。
隣地所有者が承諾すれば、費用を単独で負担して行うこともできます。
前提論なので、必ず共同で費用負担しなければいけないと言っているわけではありません。
(境界標の設置及び保存の費用)
第224条 境界標の設置及び保存の費用は、相隣者が等しい割合で負担する。ただし、測量の費用は、その土地の広狭に応じて分担する。
原則ルールを定めておくことで、トラブルを未然に防ぐ趣旨です。
実際には、お互いが合意すればOKなので、様々なケースが存在します。
(囲障の設置)
第225条 二棟の建物がその所有者を異にし、かつ、その間に空地があるときは、各所有者は、他の所有者と共同の費用で、その境界に囲障を設けることができる。
2 当事者間に協議が調わないときは、前項の囲障は、板塀又は竹垣その他これらに類する材料のものであって、かつ、高さ2メートルのものでなければならない。
民法は、古い法律なので、板塀とか竹垣という表現になっています。
現代では、ブロック塀やブロックフェンスだと考えてください。
(囲障の設置及び保存の費用)
第226条 前条の囲障の設置及び保存の費用は、相隣者が等しい割合で負担する。
一般的に、設置費用については、建築する側の土地所有者が負担することが多いですが、条文上ではこのように規定(原則規定)しています。
(境界標等の共有の推定)
第229条 境界線上に設けた境界標、囲障、障壁、溝及び堀は、相隣者の共有に属するものと推定する。
2つの土地にまたがって設置したブロック塀等のことを言っています。
境界の中心がブロックの中心になるように積むので、実務では「芯積み」と言われます。
完全に自分の敷地内に設置した場合には、この条文は適用されません。
(共有の障壁の高さを増す工事)
第231条 相隣者の一人は、共有の障壁の高さを増すことができる。ただし、その障壁がその工事に耐えないときは、自己の費用で、必要な工作を加え、又はその障壁を改築しなければならない。
2 前項の規定により障壁の高さを増したときは、その高さを増した部分は、その工事をした者の単独の所有に属する。
(竹木の枝の切除及び根の切取り)
第233条 隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に、その枝を切除させることができる。
2 隣地の竹木の根が境界線を越えるときは、その根を切り取ることができる。
近年では、竹木がある庭を持っている人は少ないですよね。
これを現代に当てはめて考えると、境界を越えて敷地内に入ってきた植物について、「切除してください」とお願いできるという事です。
但し、地面から出てきた根については、自分の土地に生えたものですから、勝手に切り取って良いとしています。
(境界線付近の建築の制限)
第234条 建物を築造するには、境界線から50センチメートル以上の距離を保たなければならない。
2 前項の規定に違反して建築をしようとする者があるときは、隣地の所有者は、その建築を中止させ、又は変更させることができる。ただし、建築に着手した時から一年を経過し、又はその建物が完成した後は、損害賠償の請求のみをすることができる。
境界線から建物までの距離については、建築基準法にも規定があります。
建築基準法では、その土地の用途地域等によって適切な距離を調整することが目的ですから、状況や場所によって守らなければならない規定値が変わります。
一方、民法では、近隣住人同士のトラブルを未然に防ぐためのルールとして、「50センチ以上は離しましょう」と規定しています。
因みに、業界用語では、この規定は「民法離れ」と呼ばれます。
第235条 境界線から1メートル未満の距離において他人の宅地を見通すことのできる窓又は縁側(ベランダを含む)を設ける者は、目隠しを付けなければならない。
2 前項の距離は、窓又は縁側の最も隣地に近い点から垂直線によって境界線に至るまでを測定して算出する。
平成11年度 出題(正解肢)
【前提条件】民法の規定と異なる慣習については考慮しないものとする。
・他人の宅地を観望できる窓又は縁側を境界線から1m未満の距離に設ける場合は、目隠しを付けなければならない。
平成21年度 出題(正解肢)
・Aの隣地の竹木の枝が境界線を越えてもAは竹木所有者の承諾なくその枝を切ることはできないが、隣地の竹木の根が境界線を越えるときは、Aはその根を切り取ることができる。
・異なる慣習がある場合を除き、境界線から1m未満の距離において他人の宅地を見通すことができる窓を設ける者は、目隠しを付けなければならない。
まとめ|勉強のコツ
相隣関係の条文は、隣人との身近なトラブルを想定している感じがしますよね。
不動産の仕事をすれば、このようなトラブルに遭遇することもありそうだと思いませんでしたか?
つまり、試験でも出題して勉強させておきたい所だということですよね。
定期的に出題される可能性がありますので、自宅の近隣等に当てはめて想像しながら勉強し、記憶に残しておきましょう。