通常、防蟻処理の有効期間は5年とされています。
建築基準法の改正により、クロルデン(効果30年以上)・クロルピリホス(効果5年以上)といった効果が長く持続する農薬類の使用が禁止されたからです。
しかし、シロアリについて詳しく調べていくと、これには疑問符がつく部分もあります。
不動産営業の立場からは、顧客に言うことができない内容なので、「知る人ぞ知る」という情報だと思います。
防蟻処理の必要性について、知っておいて損のない知識だと思いますので、是非一読してみてください。
シロアリ対策は地域によって異なる
日本にいるシロアリは、イエシロアリとヤマトシロアリの2種類が代表格です。
近年は、外来種のアメリカカンザイシロアリの生息が確認されており、注意が必要になる地域が広がっています。
シロアリの種類によって、かなり注意点が異なるのですが、これについてはあまり知られていないと思います。
厳密には、シロアリの種類によって対策が変わるということです。
お住まいの地域によって、注意すべき点や対処法等が異なるわけですが、住宅業界では単純に「5年に一度は防蟻処理をすべき」という常識で定着しています。
地域に合わせた知識を与えることは難しいですし、何かあったら大変なので「たぶん大丈夫です」等とは言えない事情があるのです。
大前提として、顧客に対しては、「確実に大丈夫な対処法」を発信するしかないという都合があります。
また、5年に一度はメンテナンスで稼げる仕組みにされた側面もあると感じます。
地域毎の特徴
日本の場合、イエシロアリが最大の脅威となりますが、イエシロアリの分布地域は、九州や四国地方等、西側に偏っているとされています。
関東地方では、ヤマトシロアリやアメリカカンザイシロアリ等に注意が必要になります。
本来は、それぞれの特徴に合わせて、家主が適切な対策をとるのが理想だと思います。
イエシロアリが生息する地域では、一般的に言われている防蟻対策が必須となるでしょう。
あらゆる建材を食べてしまう狂暴なシロアリなので、普段から意識して予防していく必要があります。
イエシロアリは、6月から7月の夜間に羽蟻が飛び出しますので、この時期は特に注意したいところです。
ヤマトシロアリ
日本で最も広い分布をしているのが、ヤマトシロアリです。
頭の下が黄色っぽいのが特徴です。
体や羽が黒っぽいので、見た目にはシロアリの一種とは思えないですよね。
関東地方については、このヤマトシロアリの対策方法から学ぶのが良いと思います。
顧客には口が裂けても言えませんが、ヤマトシロアリに対しては、必ずしも5年に一度の防蟻処理が必要ではない場合もあると思います。
これは、ヤマトシロアリの生態に関係していますので、少し詳しく説明しておきますね。
ヤマトシロアリは、腐った木材や枯葉の中等に営巣します。
林の中の倒木等に多く生息していますが、古い住宅や廃材(段ボール含む)等にも営巣します。
4~5月の晴れた日の昼間に羽蟻が飛び、新しい営巣場所を求めて活動し始めます。
この時期は、駆除業者にとっては稼ぎ時ですので、「ヤマトシロアリを見かけたら、点検を受けましょう」等という広告をする業者が増えます。
こんなチラシを見かけたら、チェックする時期が来たと思うようにすると良いかもれません。
ヤマトシロアリの場合、水を運搬する能力が著しく低いので、湿った木に営巣する必要があります。
逆を返せば、水分の無い硬い木材は侵食しないのです。(他のシロアリは別です)
つまり、住宅の木材が湿っていなければ、防蟻処理を更新しなくても被害は受けにくいということです。
住宅営業の立場からは、不確実なコメントはできない為、「5年に一度はやったほうがいいです」ということになりますが、ヤマトシロアリに関しては微妙な見解です。
ヤマトシロアリの判別方法
4~5月に、アリの羽と思われるものを発見したら、ヤマトシロアリの可能性があります。
近くにアリがいないか探してみてください。
黒アリの羽である場合もありますので、蟻本体を探す必要があります。
ヤマトシロアリは、頭と胴体の間にオレンジ色の部分があるのが特徴です。
マフラーをしているような感じで、頭の下に黄色っぽい部分があればヤマトシロアリで間違いないと思います。
羽蟻の飛行距離は、約100mの範囲内と言われます。
つまり、羽が落ちていた場所の近くには、2~3年かけて成長したヤマトシロアリの巣があるという事です。
ヤマトシロアリ対策
ヤマトシロアリは、高温に弱い蟻で、巣を離れるのは命がけの行動になります。
実は、とても弱い種類のシロアリなので、予防自体はそれほど難しくありません。
家の周囲には、腐った木材や土(腐葉土等)を置かないようにするのが基本です。
自分で水を運ぶことがでないアリですから、乾いた木材にたどり着いても巣食う前に自分が死んでしまいます。
暑い日には、既に死んでいる個体が落ちていることもあります。
実際、ヤマトシロアリを捕獲して虫かご等に入れてみると、暑さや乾燥ですぐに死んでしまいます。
それでも晴れの日に飛び立つ理由は、継続的に湿気の高い場所を感知するためとも考えられています。
イエシロアリの場合、硬い木材でも侵食できますが、ヤマトシロアリについては正しい知識を持って対処すれば、それほど怖い相手ではありません。
つまり、ベタ基礎による施工がされていて、木材の腐食がない状態の家では、それほど心配する必要がないシロアリなのです。
ただし、古い家や、基礎の下に土が露出しているような住宅は、一定期間ごとに防蟻処理をしておいた方が安心です。
外断熱工法・蓄熱工法に注意!
省エネ住宅の人気に伴って、外断熱工法・蓄熱工法を採用する建築物が増加しています。
この工法の問題点は、土台・床下に防腐防蟻薬剤が散布されると、居住スペースが薬剤の成分に直接さらされてしまう点です。
高気密な住宅は、薬剤が人体に与える影響が大きくなるのです。
この為、使用する防腐防蟻剤には、揮発性が低く、人体への影響が軽微なものを選択しなければいけません。
しかし、それって「効き目が薄い薬剤」ということにもつながりますよね。
イエシロアリの分布地域だったとしても、まずはこの点を考慮しなければいけないという事を忘れないでください。
自分たちの健康を害してしまっては本末転倒ですから、最善の対策を模索する必要があります。
防蟻処理と合わせた対策
関東地方でベタ基礎施工の建築物の場合、防蟻処理の施工は10年程度まで先送りしても問題がないケースが多いです。
木材が腐食しない限り、ヤマトシロアリによる被害リスクは少ないからです。
防蟻処理による人体への健康被害のリスクの方が高い場合もあると思うので、自己対策によって予防できるのであれば、それに越したことはないですよね。
最近では、シロアリの巣を壊滅する人口餌も開発されていますので、このような商品を利用するのも一考です。
また、スプレータイプの防蟻剤もありますので、基礎周辺に散布しておくといった対策も一定の効果があると思います。
半年から1年は効果が継続する商品が多いので、4月~7月の期間に効き目が強くなるようなタイミングで使用すると効果的です。
スプレー剤については、千円前後で購入できますから、毎年の慣習にしても良いと思います。
防蟻処理の重要性
住んでいる地域や環境等によって、「防蟻処理の施工頻度は異なる」というのが私の自論です。
しかし、今後はより一層、防蟻処理が欠かせない時代になっていくという現実もあります。
その理由は、外来種が広がっていることにあります。
関東地方では、アメリカカンザイシロアリが心配です。
現在、東京近郊や水際の一部で確認されていますが、正確な分布はまだ不明です。
とても厄介なシロアリで、乾いた木材でも侵食できるのが特徴です。
木材や家具の輸入によって運び込まれたと言われており、温度変化や環境湿度の影響を受けにくい強さがあります。
また、ヤマトシロアリやイエシロアリのように蟻道や蟻土を作らない為、発見されにくいという特徴があります。
ヤマトシロアリやイエシロアリと比較すると食害の進行が遅いのは救いですが、早期発見が難しく、駆除法が確立されていないのが難点です。
しかも、建物全体を侵食するので、耐震性が著しく低下してしまうケースが多いそうです。
近隣エリアで生息が確認されている地域では、防蟻処理だけではなく、住宅周りでの対策も実行していくことが大切だと思います。
防蟻処理の費用等
防蟻処理(工事)は、一坪単位で単価が決まっていて、普通の一戸建であれば5万円から15万円くらいの間で設定されているケースが多いと思います。
ハウスメーカーの場合は、利益率や材料単価等の関係で少し金額が高い傾向があります。
実際には、新築時に施工されている防蟻処理のままで放置していても、シロアリ被害が発生しないケースはたくさんあります。
それでも、不動産関係者は「5年経過したら、必ず防蟻処理をしたほうが良い」等と言うしかありません。
外壁やコーキングの他、屋根のメンテナンスについても、実際の耐用年数よりも短い期間で「メンテナンスが必要」と発信するしかないのがメーカーやリフォーム業者の立場なのです。
賞味期限と同じで、少し短めにしておくしかないわけです。
この点を考慮しながら、無駄にならない程度の投資をしていくことが大事なのではないかと思います。
「わからない=やっておこう」という発想になりがちですから、しっかり知識をつけて判断できるようになることで節約に繋がると思います。
まとめ
防蟻処理から5年以上経過することで、薬剤の効果は急激に減少します。
この状態でも、シロアリの餌場にされる可能性が低いと判断できれば、施工を先延ばす選択もあると思います。
責任問題になるので、営業マンの立場からは申し上げられませんが、実際には5年に一度までは必要ないケースも多いはずです。
また、住宅構造(外断熱等)によっては、基礎周囲での対策を講じる方が良い場合もあるはずです。
シロアリ用の商品(薬剤)も増えていますので、正しい知識を身に付けて予防策を講じていくことが大切だと思います。
基本的には、「5年に1回」と決めて防蟻施工していくのが理想ですが、環境や住宅性能等に合わせて臨機応変に判断するのが本来の有り方だと思います。