民法の『意思表示』について、宅建独学用の無料テキストを作成しました。
勉強範囲は狭いものの、比較的に過去問での出題が多い部分です。
条文の意味を理解しながら、過去問での問われ方を確認できるように作成してあります。
意思表示
民法で意思表示とされているものには、心裡留保・虚偽表示・錯誤・詐欺・脅迫・公示などの種類があります。
まずは、なんとなくでもいいので、これらの意味・違いについて把握しましょう。
第三者に対してこれらの意思表示をした際、どのような効果や対抗権が生じるのかを理解することがポイントです。
それぞれの条文を確認しながら、過去問を見ていきましょう。
心裡留保
心裡留保(しんりりゅうほ)を勉強するには、まず「善意無過失」の意味を理解する必要があります。
善意とは、「正しいと信じていた」という意味です。
もっと身近な表現にすると、「わざとではなかった」って感じです。
ですから、隠れた事実等を「知らなかった」という事にもなります。
無過失とは、「過失が無い」という意味です。
「責任を負う必要のない状況だった」という意味で理解しても良いかもしれませんね。
民法では、善意無過失という表現が良く出てきます。
善意で無過失なのですから、この意味は「正しいと信じたことについて過失が無い」という事です。
心裡留保
第九十三条 意思表示は、表意者がその真意ではない(冗談等の)場合であっても、その言葉の効力は生じるものとする。
但し、相手方が表意者の真意を知り(悪意)、又は知ることができたとき(有過失)は、その意思表示は無効になる。
例えば、AがBに対し、冗談で「俺の高級車を10万円で売ってやるよ」と言った場合でも、この時点では有効に扱われます。
民法上は、Bが善意無過失であれば、原則として有効な意思表示という事になるのです。
一方、Aの発言について、Bが冗談だと知っていた場合(悪意)や、冗談であることを知ることができる状況だった場合(有過失)は、無効な意思表示となります。
では、これが更に売却された場合はどうなるでしょうか。
Bが第三者Cに高級車を売ってしまった場合です。
この場合、Cが善意無過失であれば有効な取引となり、Aに対して対抗できます。
Cは普通に買い物をしただけなのですから、何も責任がありませんよね。
ですから、AはCから車を取り戻すことは出来なくなります。
しかし、Cが悪意の場合は、Aに対抗することができません。
Bが悪意で手に入れた経緯を知っているのであれば、Bの立場と同じ扱いをされてもしかたありませんよね。
虚偽表示
虚偽表示とは、相手方と共謀して偽又は嘘の表示をすることを言います。
心裡留保は、単独での嘘や冗談が原因ですが、虚偽表示の場合は通謀者がいるわけです。
虚偽表示
第94条 相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。
2 前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。
通謀虚偽表示による意思表示は無効ですが、善意の第三者には対抗できません。
平成30年度
過去問(正解肢)
前提条件:AがBに甲土地を売却した場合に関する記述
- AB間の売買契約が仮装譲渡であり、その後BがCに甲土地を転売した場合、Cが仮装譲渡の事実を知らなければ、Aは、Cに虚偽表示による無効を対抗することができない。
平成16年度
過去問(正解肢)
前提条件:A所有の土地につき、AとBとの間で売買契約を締結し、Bが当該土地につき第三者との間で売買契約を締結していない場合
- Aが、強制執行を逃れるために、実際には売り渡す意思はないのにBと通じて売買契約の締結をしたかのように装った場合、売買契約は無効である。
錯 誤
錯誤とは、簡単に言えば「勘違い」の事です。
うっかり間違えてしまった場合に、その相手に対する責任をどう考えるのかという視点で理解していきましょう。
人為的な間違いは発生しやすいものですし、意思表示の中でも不動産取引で起こる可能性が高いものです。
本試験でもよく出題されていますので、特に念入りに学習しておきたいところです。
錯 誤
第95条 意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。
法律行為の要素とは、「主要(大事)な部分」といったイメージで理解してください。
主要な部分に錯誤があった場合、錯誤について重大な過失が無ければ、その意思表示は無効になるということです。
錯誤は、重大な過失が無い場合は、善意の第三者に対しても対抗できます。
ある法律行為が生じた原因が勘違い(錯誤)だったか、意図的な嘘や冗談(心裡留保)だったかの違いは大きいという事ですね。
勘違いが原因の事については、「善意の第三者だったとしても許してあげてね」と言っているわけです。
平成30年度
過去問(正解肢)
前提条件:AがBに甲土地を売却した場合に関する記述
- Aが甲土地を売却した意思表示に錯誤があったとしても、Aに重大な過失があって無効を主張することができない場合は、BもAの錯誤を理由として無効を主張することはできない。
平成17年度
過去問(正解肢)
前提条件:AがBに対し土地の売却の意思表示をしたが、その意思表示は錯誤によるものであった。
- 錯誤を理由としてこの売却の意思表示が無効となる場合、意思表示者であるAに重過失があるときは、Aは自らその無効を主張することができない。
平成21年度
過去問(正解肢)
前提条件:民法第95条本文「意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。」についての記述で正しいもの。
- 意思表示をなすに当たり、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。
- 表意者自身において、その意思表示に瑕疵を認めず、民法第95条に基づく意思表示の無効を主張する意思がない場合は、第三者がその意思表示の無効を主張することはできない。
- 意思表示をなすについての動機は、表意者が当該意思表示の内容とし、かつ、その旨を相手方に明示的に表示した場合は、法律行為の要素となる。
ポイント
表意者自身が錯誤である事を認めない場合、取り消しできる権利を放棄するようなものですよね。
本人があえて自分の錯誤の責任を取るという意思表示をしているのと同じですから、第三者がこれを無効だと主張することができないのだと考えれば理解しやすいと思います。
平成13年度
過去問(正解肢)
前提条件:Aが、Bに住宅用地を売却した場合の錯誤に関する記述
- Bが、Aや媒介業者の説明をよく聞き、自分でもよく調べて、これなら住宅が建てられると信じて買ったが、地下に予見できない空洞(古い防空壕)があり、建築するためには著しく巨額の費用が必要であることが判明した場合、Bは、売買契約は錯誤によって無効であると主張できる。
- Aが、今なら課税されないと信じていたが、これをBに話さないで売却した場合、後に課税されたとしても、Aは、この売買契約が錯誤によって無効であるとはいえない。
無効にできるかどうかのポイントは、「法律行為の要素」に該当するかを見極める事と、重過失の有無です。
予見できない空洞ですから、重過失はありませんし、建築が出来ないのは「重要な要素」です。
課税されないと思って売却したのは、自分の責任です。
それに、課税されたとしても、それが取引の要素とまでは言えませんよね?
但し、AがBに対し、事前に「課税されない事が要素である」と表明していた場合には、無効が認められますので注意が必要です。
詐欺又は強迫
詐欺又は強迫に対してしてしまった意思表示は、取り消すことが出来ます。
但し、詐欺又は強迫を理由に意思表示が取り消された場合、善意の第三者には対抗できません。
錯誤の場合と、違いを意識して覚えて下さい。
条文では以下のような文言になっています。
詐欺又は強迫
第96条 詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
2 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知っていたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
3 前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意の第三者に対抗することができない。
詐欺又は強迫に気付いて意思表示を取り消した時に、既に善意の第三者に不動産等の所有権が移っていた場合を想像しましょう。
こんな場合、詐欺や強迫の事実を知らなかった第三者が守られる条文になっています。
錯誤の場合は、善意の第三者にも取り消しの効果が及びましたよね。
それは、本来なら無かったはずの行為だったからです。
詐欺又は強迫の場合、錯誤よりは「本人の注意で避けられた可能性がある」とも考えられます。
そういう意味で、少し責任が重いと考えれば納得できるのではないでしょうか。
平成30年度
過去問(正解肢)
前提条件:AがBに甲土地を売却した場合に関する記述
- 甲土地につき売買代金の支払と登記の移転がなされた後、第三者の詐欺を理由に売買契約が取り消された場合、原状回復のため、BはAに登記を移転する義務を、AはBに代金を返還する義務を負い、各義務は同時履行の関係となる。
平成19年度 過去問の正解肢
前提条件:A所有の甲土地についてのAB間の売買契約に関する次の記述
- Aが第三者Cの強迫によりBとの間で売買契約を締結した場合、Bがその強迫の事実を知っていたか否かにかかわらず、AはAB間の売買契約に関する意思表示を取り消すことができる。
予備的な学習
ここからは、意思表示の中でも比較的出題の可能性が低い部分になります。
ですから、今後の出題に備えたプラスアルファの勉強という感覚で読んでください。
不動産取引では、境界の確定を書面で承諾してもらう際等、遠隔地に住む所有者と連絡をとることもあります。
そういった意味で、出題の可能性がゼロではない部分だと思いますので、重要度は低いものの、念のため掲載しておきます。
(隔地者に対する意思表示)
第97条 隔地者に対する意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる。
2 隔地者に対する意思表示は、表意者が通知を発した後に死亡し、又は行為能力を喪失したときであっても、そのためにその効力を妨げられない。
民法には、「発信主義」と「到達主義」という考え方があります。
遠隔地にいる人への意思表示については、到達主義を採用しており、手紙等でその通知が相手に伝わった時から効力を生じます。
到達さえしていれば、相手が死亡したとか、行為能力を喪失していても効力を生じます。
公示による意思表示
意思表示は、表意者が相手方を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、公示の方法によってすることができます。
公示による意思表示は、最後に官報に掲載した日又はその掲載に代わる掲示を始めた日から二週間を経過した時に、相手方に到達したものとみなします。
但し、表意者が相手方を知らないこと又はその所在を知らないことについて過失があったときは、到達の効力を生じません。
意思表示の受領能力
意思表示の相手方がその意思表示を受けた時に未成年者又は成年被後見人であったときは、その相手方に対抗することができません。
未成年や成年被後見人に対しては、「意思表示をしたぞ」とは言えないことにしてあります。
但し、その法定代理人がその意思表示を知った後は、意思表示の効力は有効となります。
まとめ|勉強のコツ
不動産取引における意思表示は、相手方の権利や資産への影響が大きいものです。
購入の申込みや、解約の申し出については、特に相手に大きな影響が出る行為です。
宅地建物取引士としてフェアな取引を行うためにも、細かく勉強させておきたい科目のはずですよね。
実際に過去問で頻出されている内容からも、そんな意図が窺えると思います。
勉強のコツとしては、このような不動産取引に関係が深い部分を優先して学び、それ以外を補助的に頭に入れておくことです。
丸暗記ではなく、論理的に内容を理解しておくことがコツだと思います。