宅建の試験では、「宅建業に当たるか」という判断をさせる問題がよく出題されています。
この中で、「自ら所有する物件を直接に賃貸借契約する行為」は宅建業には当たらないとされています。
単純に暗記してしまえば良いのかもしれませんが、これについては腑に落ちない人もいるのではないかと思います。
この記事を読んでおくと、問題を解く時の判断に役立つかもしれません。
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賃貸業は業ではない?
賃貸物件でも、都内の物件であれば、賃料が数十万円になる場合もあります。
個人所有だからといって、このような物件の直接取引を「業」とみなさないのは不思議な気がしませんか?
例えば、年に1千万を超える賃料収入を稼いでいるような賃貸オーナーがいたら、立派な事業ですよね。
大家さんが直接貸す行為だから「宅建業ではなく、賃貸業である」と言われても、なんとなく納得がいかないのではないでしょうか。
そもそも、「賃貸業だから」という理由で業とみなさないのなら、賃貸の代理や媒介についても同じ理由で業から除外できそうなものです。
「賃貸の代理」と「賃貸の媒介」が宅建業とされているのに、直接の賃貸が業から除外された理由が腑に落ちない人もいるはずです。
そもそも、この問題点は、仲介手数料としての収入を得ているかで判断することもできます。
しかし、直接貸しても大きな利益が出ることは多々あるので、なんとなく腑に落ちない・・という事になるのだと思います。
この理由は、明確に記載されているわけではないので、法律の考え方を掴むしかありません。
そこで、「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」(国土交通省)から宅建業の考え方について再確認してみましょう。
これによれば、業についての判断は、以下のように定義されています。
(第2条第2号関係より一部抜粋)
「宅地建物取引業」について「業として行なう」とは、宅地建物の取引を社会通念上事業の遂行とみることができる程度に行う状態を指すものであり、その判断は次の事項を参考に諸要因を勘案して総合的に行われるものとする。
着目すべきは、「社会通念上、事業の遂行とみることができる程度に行う状態」という部分です。
個人が行う賃貸業については、「事業の遂行とみることができる程度の状態であれば業になる」という反対解釈もできてしまいそうですよね。
更に重要なのが、下線部の記述です。
判断については、この下線部の条件で行う事とされています。
では、一体、下線部の「次の事項」とは何でしょうか。
一つずつ確認していきましょう。
宅建業の判断基準
「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」(国土交通省)に記載されている判断基準について、一部を抜粋して読みやすくしてみました。
取引の対象者
(第2条第2号関係より一部抜粋)
広く一般の者を対象に取引を行おうとするものは事業性が高く、取引の当事者に特定の関係が認められるものは事業性が低い。
(注)特定の関係とは、親族間、隣接する土地所有者等の代替が容易でないものが該当する。
そもそも、単なる「賃貸」は、宅建業ではないので、この説明内容の対象ではないのですが、考え方としては総合的に判断するわけですから、無関係とは言えません。
「もしも宅建業だったとしたら」と考えて当てはめてみることで、個人の賃貸業について「どうして宅建業から除外したのか」が見えてくると思うのです。
では、自己所有物件を直接に賃貸借契約する行為は、広く一般の者を対象にしているでしょうか。
直接に貸す行為は、特定の者に対して行うと考えて良さそうに見えます。
でも、物件に「入居者募集中」などと看板を出し、不特定多数に募集を行った場合、広く一般の者を対象にしていることにもなり得そうです。
未だ疑問は晴れないですよね。
なんだかスッキリしませんので、もう少し先に進みましょう。
取引の目的
(第2条第2号関係より一部抜粋)
利益を目的とするものは事業性が高く、特定の資金需要の充足を目的とするものは事業性が低い。
(注)特定の資金需要の例としては、相続税の納税、住み替えに伴う既存住宅の処分等、利益を得るために行うものではないものがある。
この説明も個人の賃貸業に当てはめてみます。
賃貸事業を節税対策や固定資産税を払う為、という理由の規模で行う場合、事業性は低いということになります。
個人の大家さんでは、このケースが圧倒的に多いですよね。
しかし、節税対策のマンション経営等では、もはや「大規模な賃貸事業でしょ」という場合もあり、微妙な案件もありそうです。
結論としては、相対的な視点で見れば「事業性は低い」という分類になるということでしょう。
取引対象物件の取得経緯
(第2条第2号関係より一部抜粋)
転売するために取得した物件の取引は事業性が高く、相続又は自ら使用するために取得した物件の取引は事業性が低い。
(注)自ら使用するために取得した物件とは、個人の居住用の住宅、事業者の事業所、工場、社宅等の宅地建物が該当する。
賃貸業に当てはめるとすれば、居住用の賃貸物件やテナント物件等は、自ら(賃貸用として)使用するために取得したものですので、ここでも「事業性は低い」と判断できます。
取引の態様
(第2条第2号関係より一部抜粋)
自ら購入者を募り一般消費者に直接販売しようとするものは事業性が高く、宅地建物取引業者に代理又は媒介を依頼して販売しようとするものは事業性が低い。
この説明文は、見るからに売買についての記述ですが、賃貸においても仲介業者を介して貸しているのであれば、同じように考えれば良いのではないでしょうか。
個人オーナーが、自ら新聞に物件広告等を入れる事はありませんよね。
賃貸業者や管理会社(不動産業者)に依頼している時点で、事業性が低いということになるわけです。
取引の反復継続性
反復継続的に取引を行おうとするものは事業性が高く、1回限りの取引として行おうとするものは事業性が低い。
(注)反復継続性は、現在の状況のみならず、過去の行為並びに将来の行為の予定及びその蓋然性も含めて判断するものとする。
また、1回の販売行為として行われるものであっても、区画割りして行う宅地の販売等複数の者に対して行われるものは反復継続的な取引に該当する。
この説明は、土地等の販売行為について説明していますので、基本的には売買について規定したものです。
売買の場合、自分の建物や土地を1回のみの売買で取引する場合は、媒介だろうが代理だろうが、免許は要りません。
これを数回の取引にしてしまうと、免許が必要になるわけです。
仮に、これを賃貸業に当てはめられるとしたら、蓋然性の部分でしょう。
蓋然性(それが実際に起こるかどうかの確実性の度合い)を含めて判断すると、賃貸の場合は確実に反復することが予想できますね。
つまり、この説明に当てはめると事業性が高いことになってしまいます。
売買の取引金額との差を考えると、この条文はあまり参考にならないということになるのでしょう。
自己所有物件の賃貸業は宅建業に該当しないので、実際には利益目的で反復した賃貸取引を行ったとしても規定違反になりません。
受験生の方々は、出題された際には、注意してくださいね。
賃貸業除外の結論
宅建業法の解釈に賃貸業を当てはめて考えてみると、「利益目的であるが事業性は比較的に低く、将来的に反復継続する業務」ということになります。
正直なところ、微妙なグレーゾーンもありそうな印象ですが、仲介業者等を介して入居者を募集していれば、事業性は低いと考えられます。
高額な賃料の物件だった場合等を考えると、宅建業にならない事が不自然に思えるかもしれません。
そのような場合においても、仲介手数料で儲けている業者がいる以上、宅建業としての事業ではないという事です。
つまり、自己所有物件の賃貸業は、総合的に見て、「社会通念上事業の遂行とみることができる程度」には当てはまらないと判断されています。
諸要因を勘案して総合的に判断した結果ということですね。
諸要因という部分に絞って考えてみると、なんとなくスッキリする理由が見えてきました。
この問題の答えは、「賃貸業も宅建業とする」という結果にしたらどんな事が起こるのかを考えれば良いのです。
世の中には自己所有の賃貸物件を持っている人がたくさんいますよね。
駐車場を貸している人もいるでしょうし、マンションや戸建賃貸等もあります。
もしも、自己所有物件の賃貸業が宅建業になれば、賃貸オーナーの全員が宅建業の免許を持たなければならなくなります。
これでは、現状は日本全国の賃貸オーナーが業法違反の状態になってしまいますよね。
ですから、諸要因を勘案して総合的に判断すると、直接貸し出す行為は事業から外すしかなかったとも言えます。
いくらなんでも、そこまでの規制はできませんよね・・。
まとめ
賃貸業は、売買よりも事業性が低く、個人と個人の契約を許しても損害が小さい為、自己責任で放任できるケースが多いでしょう。
それに加え、全国の賃貸物件のオーナーに宅建業の免許を課すのは非現実的なことです。
よって、宅建業から単なる賃貸業を除き、「賃貸の代理」と「賃貸の媒介」を生業にする人達に対して、『プロとして免許を持ちなさい』というルールにしたと考えるのが自然です。
自ら所有する賃貸物件のオーナーが宅建業の規制を受けないようにしたのは、このような事情を勘案したということで納得するしかありません。
どこかスッキリしない話ではありますが、この記事で考えたことを思い出せば、試験で苦労せずに回答できるのではないでしょうか。