今回は、「2022年問題」と呼ばれる生産緑地の期限についての話です。
不動産に精通したプロから見た2022年問題は、一般的な不動産関係者とは見解が少し違うかもしれません。
2022年問題については、TV等で評論家が得意げに予測解説しています。
しかし、実務的に不動産業務に携わっている立場からすれば、「貴方たちに何がわかるの?」というのが率直な感想です。
未来は誰にも分かりませんが、少なくともこの業界を知らない人達の意見よりは現実に近い話になると思います。
2022年問題が気になっている方々等に読んでいただき、参考にしていただければと思います。
(この記事は、2018年5月に書いたものです)
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2022年問題の概要
生産緑地というのは、簡単に言えば「農業をしていれば税金が安くなる土地」です。
30年間の期限付きで固定資産税が格段に安くなる制度なので、多くの地主がこれを利用しているわけです。
そして、生産緑地法の改正でこの制度が使えなくなる期限が近づいています。
10年の延長ができる場合もありますが、生産緑地の指定が解除されるピークが2022年という事には変わりがありません。
生産緑地は、全国で約4,000万坪以上も存在していて、東京都だけでも990万坪以上あるそうです。
ちょっとピンと来ない広さかもしれませんが、かなりインパクトのある件数ですよね。
これだけの土地が、何らかの形で利用されることになると、様々なマーケットに影響が出てきます。
特に、相続を控えている人や、広い生産緑地を保有する方々にとっては、どうしたら良いのか迷うところでしょう。
土地を売却する人の増加
生産緑地の指定期間が満了すると、市町村に土地の買い取り申請をすることができます。
しかし、実際には「財政面での都合で買い取りができません」という結果に終わるケースが殆どです。
生産緑地だった土地が、宅地として扱われるようになると、固定資産税がハネ上がる為、土地を持ちきれない地主がたくさんいます。
広大な土地の固定資産税は、かなりの金額になりますから、地主にとっては大問題です。
収益物件を建築しても、税金を払うためにやっているような恰好になってしまうことも多く、売却を選択せざるを得ない地主さんがいるのです。
こうして売却された土地には、業者の手による建売物件(又は収益物件)等が建築されることが想定されます。
しかし、2022年問題に備えて、地主の中には事前に対策に出る人も増えるはずです。
企業との連携により、老人ホーム等の福祉施設を運営する人等も出てくるでしょう。
また、「2022年になってからでは遅い」と考える人達は、早めに売却していくことも検討しています。
生産者が老人ホーム等に入ると、生産緑地が解除できる可能性があるので、前倒して動く人達もいるのです。
建売住宅を購入しようと考えている人達にっとてみれば、良い物件を安く手に入れるチャンスが増加することは間違いないでしょう。
様々な憶測
2022年問題によって、地価が下がると言う人達がいます。
しかし、これもどの程度の影響が出るかは未知の部分があります。
私は、一時的な変動はあっても、結局は地価が変わらない可能性が高いと考えています。
売買の仲介営業の視点から見ても、建売の物件数が局地的に増えるとは思います。
東京都練馬区等のように、都内でも狭いエリアに多くの畑が残っている場所があるからです。
地主が持っている土地は一定の地域に固まっていますから、そのエリアの物件価格が下がると考えるのは自然な事のようにも思えますよね。
でも、建売業者もそこを考えて、工夫をしないわけがありません。
時期を遅らせることが可能な土地は、何期かに分けて分譲をするでしょう。
それに、良い土地仕入が出来る(安く買える)はずですから、設備やデザインで差別化を図り、他の地域からの流入を促すこともできます。
本来は、中野区や杉並区等で探そうと思っていた人達を、価格と設備で呼び込むといった戦略をとると思います。
つまり、物件価格は今までと同じですが、設備やデザインが良くなるという事です。
それでも価格を下げなければ売れない状況なら、建物の利益を最大まで削って処分(安売り)するだけです。
つまり、地価が下がるよりも前に、建売業者の利益率が減る方が先なのです。
それでも土地が余ってしまい、買い手がいないというなら地価が下がることになるのでしょう。
しかし、このような事態となっても、地価の下落は一時的な事だと思います。
大口物件が売れてしまった後は、しばらく売り物が出ないという事になり、将来的には需給が一致するからです。
それに、東京で土地や家を欲しがる人はたくさんいます。
2022年以降の住宅購入を狙っている人さえいるはずですよね。
ですから、私は、土地の相場は今までとそれほど変わらない可能性が高いと考えています。
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波及効果も大きい
都市計画等によって、新たな地域地区が誕生する可能性もあると思います。
低層住居専用地域の一部に商業施設等の建築を許す等、その一帯を活性化させる地区計画等が検討されれば、中高層の建物等も誘導されるかもしれません。
最も懸念されるのは、建築現場の増加によって職人等の数が不足する事です。
人件費と資材価格の上昇が起こる可能性があり、物件価格が予定通りに下げられない事態も想定できます。
大現場が赤字化するようなことになると、経営状況が悪化する企業が出る可能性もあるでしょう。
住宅購入のチャンス?
今後、2022年問題の時期を、住宅購入のチャンスと見る人達は増えていくと思います。
消費税増税による駆け込み需要の後は、2022年を待つ人達が益々増えると予想しています。
お得に買える建売住宅を求める人達が足を運ぶでしょうから、意外に売れ行きは良いかもしれません。
売れ残れば格安で販売されることになりますが、人気が集中する現場では、価格は普段とあまり変わらない可能性もあります。
安く購入するためのタイミングとしては、大現場等で売れ残った号棟を狙うのがベストでしょう。
景気刺激策として、住宅購入を促進する動きも継続すると思います。
株価への影響
戸建建築には、ライフライン関連の仕事があります。
水道の引き込みや、電気配線工事、ガスの埋設管を接続する工事等です。
これらの会社は、工事から2か月後には支払いが完了されますので、確実に決算上の利益が増加します。
地盤改良の会社についても売上増となるはずです。
木材のプレカット工場等についても同様でしょう。
建物の建築数が増加することで、火災保険の加入件数も相対的に伸びるはずです。
また、銀行株についても融資件数の増加が織り込まれるかもしれません。
低金利に加え、コロナウイルスでの貸し倒れリスクも高まっていますが、東京だけでも5万棟前後の工事が発生するのではないでしょうか。
金利が低いとはいえ、これだけの融資が発生する効果はプラスですよね。
コロナ終息後に、長期金利が上がってくれば、銀行株も戻りを試すことになるかもしれません。
建売業者本体の株価については、事前にどれだけ織り込むか不透明です。
完売までには時間もかかりますから、売れ行き動向等によって乱高下する銘柄もあるかもしれません。
また、これだけの棟数があれば、レオパレスの時のように、何か不具合や欠陥等の問題が生じてニュースになる事もあるかもしれませんね。
賃貸市場への影響
一定の地域に建売物件が急増することで、その地域の賃貸物件には空きが増えることになります。
しかも、数万人のファミリー層が賃貸物件から戸建へと転居する動きが発生します。
これに付随して、電化製品等を新調する人も増えるため、家電の売上も良くなるかもしれません。
リフォーム業者と引越し業者も好調ですね。
通信関連の引き込み案件も増加します。
減益が心配なのは、家賃保証をしている企業です。
コロナウイルスで補償額が増加した後に、既存客(入居者)が減少することになるのですから、大東建託等の株価は軟調傾向が続くかもしれません。
ファミリー層が入っている賃貸物件は、比較的賃料が高めです。
そして、現況では物件が不足気味であるという状況下で成り立っている面があります。
この層が局地的に移動してしまえば、打撃を受ける賃貸物件が出て来るはずです。
また、戸建賃貸住宅や、戸建型シェアハウス等の増加も考えられるため、どちらにしても空室率は上昇しやすいと思います。
近年、土地活用による収益物件が増え、供給過多になる可能性がある事も理由の一つです。
ワンルーム物件については、既に飽和状態になっている地域もあり、注意が必要です。
まとめ
2022年問題は、多くの分野で経済的影響を与える出来事になることは確かです。
地主さんにとっては、あまり良い事が無さそうなイベントですよね。
また、大きな建売現場が出ると、少棟数の現場が見劣りしますので、小さな建売業者にも不利なイベントと言えます。
個人的には、建売業者も家賃保証会社も、勝ち組と負け組がハッキリと別れる年になる気がしています。